「早く着替えて」「宿題を始めて」と何度言っても、子どもが動かない。やる気がないのかな、と心配になる一方で、時間がない朝はつい強い口調になってしまう。そんな日が続くと、親も子どもも苦しくなります。
けれど、動けないことを、やる気や性格だけで説明する必要はありません。今やることを覚えておく、気になる遊びから切り替える、最初の一歩を決める。子どもにとっては、いくつもの力を同時に使う場面だからです。
中学校教員として11年、特別支援学級主任も経験し、2児の父でもある私自身、「分かっているのに動けない」子どもを数多く見てきました。大切なのは、親がもっと頑張って言い聞かせることではなく、子どもが始めやすい形に言葉と環境を整えることです。
子どもが動けない理由はやる気不足とは限らない
朝の支度、片づけ、宿題の始め。子どもが止まっていると、「やりたくないから動かない」と見えやすいものです。でも実際には、何を最初にすればよいか分からない、次にすることを覚えていられない、遊びを終える気持ちの準備ができていない、といったことが重なっている場合があります。
たとえば「着替えて、歯を磨いて、カバンを持ってきて」と言われたとき、大人は一連の流れとして受け取れます。一方で子どもには、複数の指示を頭に置いたまま、今していることをやめ、新しい行動を始める課題になります。
動けない日は、怠けている日とは限りません。「どこで止まっているかな」と見てみると、かける言葉が変わります。声かけを何度も繰り返してしまうと感じる方は、子どもに何度言っても伝わらないと感じる理由や、基本的な声かけを見直すポイントも参考にしてください。
海外研究で注目される実行機能とは
実行機能とは、目標に向けて行動するときに使う、脳の「段取り」や「切り替え」に関わる働きのことです。海外の発達研究では、主に次の3つが土台として扱われています。
| 働き | 日常で見えやすい場面 | 親ができる支え |
|---|---|---|
| ワーキングメモリ | 言われたことを頭に置きながら動く | 一度に一つだけ伝える |
| 抑制制御 | 遊びを中断して、次の行動へ移る | 終わりを予告する |
| 認知的柔軟性 | 予定変更や、やり方の変更に対応する | 次の見通しと選択肢を示す |
心理学者Adele Diamondによるレビューでは、実行機能の中核として、抑制制御・ワーキングメモリ・認知的柔軟性が整理されています。これは子どもの能力を一言で測ったり、診断したりするためのものではありません。今の行動が難しくなる理由を、別の角度から考えるための言葉です。Diamond, Executive Functions(Annual Review of Psychology)
ハーバード大学のCenter on the Developing Childも、こうした力は生まれつき完成しているものではなく、大人とのやりとりや年齢に合った活動・練習の中で育つと説明しています。できない瞬間があることは、親の関わりの失敗を意味しません。実行機能を支える年齢別活動ガイド(Harvard University)
なぜ「早くして」が届きにくいのか
「早くして」は、忙しいときに自然に出る言葉です。言ってしまった自分を責める必要はありません。ただ、この言葉だけでは、子どもには「何を」「どの順番で」「どこまで」すればよいかが見えにくいことがあります。
さらに、急かされると焦りや悔しさが大きくなり、切り替えや段取りに使える余裕が小さくなる子もいます。止まっている子に必要なのが気合いではなく、最初の一歩である場合、言葉を増やすほど動き出しにくくなることもあります。
「早くして」
↓
「まず靴下を履こう。履けたら教えて」
やることを一つにし、終わりを分かる形にする。それだけでも、子どもが頭の中で抱える負担を減らせる場合があります。
動き出しやすくなる声かけ3選
1. 最初の一歩だけを伝える
やること全部を言う代わりに、今すぐできる動作を一つだけ伝えます。
「支度して」
↓
「パジャマを脱ごう」
できたら次を伝えれば大丈夫です。子どもが自分で続きを始めたら、指示を足さずに見守る時間もつくれます。
2. 切り替えを先に知らせる
遊びや動画を終えるときは、突然やめるより、次に何が来るかを短く予告します。
「もう終わり」
↓
「このブロックを箱に入れたら、歯みがきに行こう」
時間を使うなら「あと5分」だけでなく、「タイマーが鳴ったら靴を履く」のように次の行動までセットで伝えます。
3. 選べる形にして始める
「やる・やらない」ではなく、必要なことの中で選べる部分を作ります。自分で始める感覚を持ちやすくなる子もいます。
「早く片づけて」
↓
「車から片づける? ブロックから片づける?」
選択肢は二つほどで十分です。どちらも難しそうなときは、「最初の一個を一緒に箱へ入れよう」と大人が横に座ることも、立派な支えになります。
子どものタイプによって届き方は変わる
実行機能の考え方は、子どもを「このタイプだからできない」と決めるためのものではありません。同じ声かけでも、入りやすい入口が子どもによって違うことを知るヒントです。
理由や見通しがあると動きやすい子
「歯みがきが終わったら絵本を読もう」「今日はこの順番で出かけるよ」のように、先の流れを短く伝えると安心しやすいことがあります。
気持ちを受け止めると切り替えやすい子
「まだ遊びたかったんだね。あと一つで終わりにしよう」のように、気持ちに触れてから次を伝えると、動き出しやすいことがあります。
体を動かしたり、選んだりすると始めやすい子
「玄関まで競争で行く? 手をつないで行く?」「赤いものを三つ箱に入れよう」のように、体験や小さな選択を入口にする方法が合う子もいます。
今日うまくいった言葉が、明日も同じように効くとは限りません。眠さ、空腹、予定変更なども影響します。「この子にはこれ」と固定せず、反応を見ながら一つずつ試すことが大切です。
まとめ
子どもが動けないとき、やる気の問題だと決めつけなくて大丈夫です。指示を覚える、気持ちを切り替える、次の行動を選ぶ。子どもは日々、育ちの途中にある実行機能を使いながら頑張っています。
- 「早くして」より、最初の一歩を一つだけ伝える
- 切り替えの前には、次の行動を予告する
- 選択肢や一緒に始める時間で、動く入口を作る
- 子どもの反応に合わせ、届きやすい言葉を探す
毎回うまく声をかけられなくても大丈夫です。まずは次の一場面で、「まず靴下を履こう」と言い換えるところから始めてみてください。
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